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この儚くも哀しき世界の中で・・・・ [小説]

【あらすじ】
突然現れた紫紺の袴の青年と斬り結び、もう一つの新たな出逢いを経た
美桜はいつか屋敷から出ることを決意する。
自分にとって最も大切な人を救う事を。
そばにいなければ壊れてしまう人の元へ戻る事を。
そしてまた彼女のそばにも新たに決意する者がいた——————。



蒼 蝶.gif
「何やってるんだ?桜」
まだあどけなさの残る少年の声が美桜を呼んだ。
「神堂君?」
振り返ると、今度は神堂平助が笑顔で立っている。
「よう、桜」
思いがけない訪問者に、美桜の笑顔はほころんだ。
「久しぶり、元気だった?」
司に見せた笑顔とは、似て非なる表情。
もし司に見せる笑顔が、妹が兄に出逢った時の表情とするなら、
平助に見せた笑顔は、友人もしくは———恋人に出逢った時の表情であろうか。
それほどまでに輝いた花のような笑顔に、平助は一瞬何かを考えた。
「ああ、だいぶ暖かくなってきたしな。桜こそ、体調大丈夫か?」
「私は大丈夫」
そう言って微笑む美桜の顔は少しやつれたように見える。
「ホントか?」
平助は美桜の右手をそっと握って、顔を覗き込んだ。
すっと、美桜の表情に影が差す。
「何かあったのか?」
続けて尋ねる平助に、美桜は我慢出来なくなって抱きついた。
「神堂君・・・・・私を・・・・独りにしないで」
独りにしないで、と再び繰り返す美桜。
静かに涙がこぼれ、小さく嗚咽を漏らす。
「私は—————傍にいるだけでっ誰かを傷つけて———しまうからっ。
でも、嫌なの!!!独りになるのは、大切な人に置いていかれるのは・・・・」
平助はその手を解く事は出来なかった。
大切な人、が誰だかは分かる。おそらく聖司の事だろう。
彼女が聖司について何を知っているかは分からない。
でもこれだけ泣きじゃくっていると言う事は、それだけ辛いこと。
自分の腕の中で泣き続ける、か弱い少女の心を傷つけるほど辛いこと。
「桜・・・・・・・・・・・オレはお前を独りにしないから。どんなことがあっても、
独りにしないから。この世界でお前を独りにする奴なんて、ただの独りもいないからっ」
たとえ聖司であっても。そう言いたくて、でも飲み込んだ。
聖司自身が伝えていない、彼の秘密。
それは美桜の心をどれだけ傷つけるか、測りかねない秘密。
「ずっとそばにいるから」
そう言って平助は美桜を抱きしめたまま、呟いた。
本当はオレじゃなくて、聖司が伝えなくてはいけない言の葉。
その葉が散る前に、聖司が同じ言葉を伝える事を平助は願った。祈った。

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千隼

ご無沙汰してます。
レイフォンさんの小説は好きです。
私も同じようにブログ(別館)で小説を連載してるのですが、尊敬します。
次回も楽しみにしてます(笑
by 千隼 (2011-01-17 20:48) 

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