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この儚くも哀しき世界の中で・・・・ [ファンタジー]


あらすじ
誰かを大切に想うほど・・・・・失った時の痛みは大きい。
それは人であっても異形であっても。
そう、鬼であろうと人を愛する事に何も変わりはないのだ。


美桜の行方を必死で追い続ける火蓮。一葉の守りたいという真っ直ぐな想い。
神威の抱く懺悔という名の感情。
あやめの身の内に抱える異形としての本能と、美桜への後悔。
神影の鋭く光る瞳の見つめた先。美鶴の胸の内にある隠された心情。
それぞれの想いと目的が交錯し、時代の波に翻弄されてゆく美桜の物語は動き出した。






注:今回の物語はかなり長いです。
もし「読みにくいな」と感じたらそれは作者の駄文のせいです。
ご容赦下さいませ。
sakura-line.jpg

この街には『七河(しちか)』と呼ばれる四大名家と
それに次ぐ実力を持つ名家の総称がある。
毎年行われる総会の後には、その何倍の時間も費やす
『七河会談』があるのだ。
今回は総会をいったん打ち切り、七河会談が先に行われる事となった。
七河会談が行われる場所は龍咲家別邸の洋室。
陽の光が暖かく差し込みつつも、厳粛な雰囲気を漂わせる一室。
部屋の中央に置かれたテーブルを囲む一同の表情は硬い。
唯一、霧島あやめだけは無表情に等しい様相である。
カチャリ、とドアーが開き火蓮が静かに入ってくる。
彼女が席に着いた後会談が始まった。

「まず、『封印』という存在が『九鳳院家の当主』だと言うのは
どういう事なのか説明して頂きましょうか」
黒城家の当主「黒城 神影(くろじょうみかげ)」が口火を切る。
「わたくしにも、彼女がそうだと理由は説明出来ません。
わたくしはあくまでも原因を知っていただけであり、
具体的な人物までは掴めなかったからです」
「原因を———知っていたのは「夢視」ですか」
今まで一度も反応を見せなかった謎めいた雰囲気を持つ
白鷺家の当主「白鷺 美鶴(しらさぎみつる)」が初めて意見を口にした。
火蓮は黙って頷きつつ、
「夢視もありますが、私がこの世界に放っている結界とは明らかに違う結界が
ここに在るのはずっと気になっていました。しかし、下手に刺激すれば
そこに待っているのは滅びのみです」
丁寧に説明した。
「それで、今九鳳院家の当主は何処に?」
神影が再び問う。先刻にも同じ質問を、聴衆の一人に投げ掛けられた。
今は、もう答えられる。霧島あやめの方を見ると、彼女は俯いたまま顔を上げない。
「美桜は、『人斬り』の真犯人を追っています。まだ、行方は掴めません」
あくまでも、『消息は』とは言わなかった。
火蓮自身も、美桜の生死について考えたくはなかったからだ。
「行方なら————私が知っています」
あやめが小さく呟いた。一同がその発言に注目する。
「美桜は、ある日私の所に来て人斬りの真実を知りたいと云いました。
情報屋として私は、彼女の捜査に協力し、人斬りに出遭いました」
「それで———————?」
「人斬りは奉行所で取り押さえてあります。しかし美桜は、
さらなる真実を求めていたようです。だからあの日————ッ」
唇を噛み、震えるあやめを火連は心から哀れに想った。
彼女が異形の存在である事を、火連は夢視で知っていた。
異形であるからこそ、美桜と言う存在をどれだけ大切に想っていたかも。
「あの日の夜、人斬りを調べに行きたいと言った美桜を止められなかった————」
止めていれば何かが変わったかもしれないのに。
人は過ちを犯すと、その後悔を一生背負って行く事になる。
美桜も、私も、あやめもまたその後悔に躯を蝕まれているのだ。
もし、火蓮を助ける力が自分にあったなら。
もし、私が『暁月』の夢を神威に伝えさせなかったのなら。
もし、美桜を止める事が出来たのなら。
そんな想いは、胸が張り裂けそうな罪の痛みとともに永遠に残る。
この場にいる全員がその罪の痛みを経験している。
「まずは、貴方が知っている『人斬りについての情報』
をこちらに提供して頂きましょうか」
美鶴が静かに告げた。
「私が情報屋として手に入れた情報はごく僅かなものです」
「では、むしろ紅殿の「夢視」に頼った方が、有効的ですね」
そう言って、火連に視線を移す美鶴の瞳は限りなく鋭い。
封印の正体の暴き方を知っていたり、人斬りの正体を疑う方法も
美鶴は一線を画していた。
普段から温厚かつ、物静かな雰囲気を漂わせる『純白の存在 白鷺美鶴』
どこか天使のように似ていると言われるが、性格は時に神や悪魔の如く残酷さが増す。
黒城家の神影の方が冷徹な性格だと思われがちだが、美鶴の方が冷酷非道である。
「今ここで夢を視る事は?」
「出来ます。が、しかし『封印』はどうするのでしょう?」
「封印の方は—————」
神影が遮った。
「九鳳院殿が戻って来ないと話にはならない。今ここで決められるのは、
彼女の所在を掴む事と、戻ってきた場合の措置だろう」
「なら、紅殿には別室に移動してもらって夢見を続けてもらおう。
『封印』の措置はこちらで決めれば良い」
一葉も意見を述べ、さらにこう続けた。
「霧島殿、貴女もこのまま続けられるか?」
「こうなった責任は、私にありますから」
あやめは小さく頷いた。

『何処にいるの—————?美桜————』
意識を水に沈めるように漂わせる火連。
世界と一体になるように、水に潜って宝を探すように。
『夢をこちらから呼び寄せるには、時間がかかりすぎる。
夢にこちらから入って行けば、きっと見つかる』
火連の意識が、一つの壁に触れた。
『—————?結界?』
滑らかな手触り、これは高度の結界であろう。
場所から推測する限り、武家屋敷のあたりか。
ピクッと何かが火連の躯に反応した!
『いる————————!絶対この中に美桜がいる!!』
力を右手に集中させ、結界の中を探ろうとしたその時、
ゴボッッゴボッと水音が響いた。
『何——————————!?』
次の瞬間、火連の意識は水の中へと沈んで行った。
まるで何かに引きずり込まれるように。

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