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この儚くも哀しき世界の中で・・・・ [ファンタジー]


———あらすじ———
「暁月」の屋敷で目覚めた美桜は、聖司に真相を問いただした。
その痛みに触れ、やがて二人は痛みを共にして行く事となる。


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 「美桜・・・・・・・・どこにいるの?」
かすかに赤みを帯びた月に向かって問いかける紅い瞳の少女。
数日前に吸った血が、自分を生かしてくれている。
だが、鬼という存在は血を吸えば吸うほど求め続けていた。
残酷なまでに血を欲する。美しく、儚く、愛しい姫を。
それが「霧島 あやめ」なのである。
「欲しい・・・・欲しい欲しい欲しい。あの血が。
甘く、切ないあの血が欲しい・・・・・。」
あやめは、月に向かって手を伸ばす。
「あぁ、欲しい。どこにいるの?美桜。出てきてよ。私にあの夢を見せてよ。」
温もりを求め、愛を求め、快感を求める。
寂寞の空に、彼女は手を伸ばし堕ちてゆく———————。


第5章「動き出した世界」

——龍咲家本邸——
大広間には、和装洋装入り交じったこの地方の有力者たちが座っていた。
年に数回しか行われない、「総会」の為である。
その奥の上座には、四代名家当主「紅 火連」、「龍咲一葉」と
四代名家に次いで力を持つ「霧島家」・「黒城家」・「白鷺家」
の当主が並んで座っている。
まず、火連が立ち上がり言った。
「皆さん、本日はご多忙の中お集まりいただき大変感謝しております。
さて、今回の総会の名目は・・・・・」
そう言いかけたところで、一人の洋装の中年の男が立ち上がった。
「こちらこそ、当主様の総会議に参加できて嬉しく思います。
しかし!!どうしてこの場に「天逢院家」と「九鳳院家」の当主様が
いらっしゃらないのですか!?」
「それは・・・・・・・・・」
説明しようとした火連を無言で止め、一葉が口を開いた。
「当主が話している途中に口を開くとは、いただけないな。貴様何のつもりだ?」
一葉の冷たい蒼く煌めいた瞳を見た男は、ごくりと生唾を飲む。
「今回2人が出席しなかったのは、「九鳳院」の方は体調が優れなかったため。
「天逢院」の方は、所用で日程が合わなかっただから、だそうだ。
どうだ、これで納得したか?」
平民上がりの成金の癖して、生意気な口をきくなとでも言っているようだった。
実際は四代名家でさえ、貴族ではないがこの総会はこの辺り一帯で行う
集会のような物なのだから仕方がない。
珍しく今日の一葉は、洋装を纏い刀を身に付けているなと
火連はその姿を見つめ思った。
「そして、今回集まってもらった件。これは、巷でも騒ぎになっている
『人斬り』の事件。あとは、それに関連する件についてだ。」
ざわつく聴衆達を見つめ、一葉はそっと息をついた。
「この件は、街の将来にも大きく関わってくる。皆、心して聞いて欲しい。」
そう言ってみんなの顔を見渡す。
不安な顔の者、生き生きとした目で見るもの、それぞれだ。


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